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太陽光発電「FIP転換」とは?!FITからの移行は本当に得か?

FIT制度(固定価格買取制度)のもとで安定運用を続けてきた太陽光発電ですが、近年の電力市場価格の歴史的な高騰を受け、多くの事業者様が「FITをこのまま続けるべきか、それともFIPへ転換すべきか」ということを検討しているケースも散見されます。

特に、FIP転換に必須となるアグリゲーター費用を考慮した上で、自社の発電所(高圧か低圧か、FIT単価はいくらか)にとって、どちらが賢明な選択なのか、具体的な数字で判断したいという声が高まっています。

この記事では、FIP制度の概要はもとより、FIP制度に変更した場合の概算シミュレーションなどもご紹介させていただきます。

1.FIP転換の収益構造と新たなコスト

まず、FIP転換後の収益モデルと、新たに発生するコストを再確認しましょう。
FIP転換後の事業者の総収入は、以下の式で決まります。

総収入=① 市場での売電収入 + ② プレミアム収入 − ③ バランシングコスト
売電収入: 30分ごとに変動する市場価格で売電して得る収入。
プレミアム収入: 市場価格の平均が安い場合に、収益の下支えとなる補助金。
③ バランシングコスト: 今回の試算の要。発電計画と実績のズレを調整するアグリゲーターに支払う費用です。ここでは、総収入(売電収入+プレミアム収入)の10%と設定します。

FIT継続の場合の総収入は、シンプルに「FIT単価 × 売電量」です。
この新たなコストである「バランシングコスト10%」を、市場価格の上昇分で吸収し、さらに利益を上乗せできるかが、FIP転換の損益分岐点となります。

 

2.【収益シミュレーション】高圧・低圧別 FIP転換のリアル

それでは、具体的な数値を基に、高圧と低圧、それぞれのケースで収益がどう変化するかを見ていきましょう。

 

<Part 1:高圧発電所(FIT単価 14円)の場合>
中規模以上の発電所を想定したシミュレーションです。

【シミュレーション前提:高圧】
FIT単価: 14円/kWh
年間発電量: 500,000 kWh(DC500kW規模を想定)
アグリゲーター費用: 総収入の10%
FIT継続の場合の年間収入: 14円 × 500,000 kWh = 7,000,000円

●ケース1:市場価格がFIT価格より低い場合 (電力市場価格:12円/kWh)
FIP転換後の年間収入:
プレミアム単価: 14円 (基準価格) – 12円 (参照価格) = 2円/kWh
売電収入: 12円 × 500,000 kWh = 6,000,000円
プレミアム収入: 2円 × 500,000 kWh = 1,000,000円
収入合計: 7,000,000円
アグリゲーター費用: 7,000,000円 × 10% = 700,000円
最終収入: 6,300,000円

考察: 市場価格がFIT単価を下回る場合、プレミアムが収益を下支えしますが、アグリゲーター費用(70万円)がそのままマイナスとなり、FIT継続時より大幅な減収となります。

※参照価格とはプレミアム単価を決定するための基準値であり、「当月の参照価格 = 前年度年間平均市場価格 + (当年度月間平均市場価格 – 前年度同月平均市場価格)」という計算で算出されています。今回の試算では「参照価格=市場平均価格」としております。

●ケース2:市場価格がFIT価格より高い場合 (電力市場価格:16円/kWh)
FIP転換後の年間収入:
プレミアム単価: 14円 – 16円 = 0円
売電収入: 16円 × 500,000 kWh = 8,000,000円
プレミアム収入: 0円
収入合計: 8,000,000円
アグリゲーター費用: 8,000,000円 × 10% = 800,000円
最終収入: 7,200,000円

考察: このケースでは、市場価格がFIT単価を2円上回ったことで、アグリゲーター費用を吸収し、FIT継続時を20万円上回る増収となりました。高圧(14円)の場合、電力市場価格が約15.6円を超えると、FIP転換のメリットが出始める計算になります。

●ケース3:【高圧 + 蓄電池】戦略的売電で収益を最大化
市場価格が安い昼間は充電し、価格が高騰する夕方(売電単価35円と仮定)に全量売電する戦略です。
蓄電池併設FIPの年間収入:
売電単価: 35円/kWh
参照価格は市場全体の平均(16円/kWh)と仮定 → プレミアム単価は0円
売電収入: 35円 × 500,000 kWh = 17,500,000円
収入合計: 17,500,000円
アグリゲーター費用: 17,500,000円 × 10% = 1,750,000円
最終収入: 15,750,000円
考察: 蓄電池への追加投資は必要ですが、FIT継続時の2倍以上の収益を叩き出すポテンシャルがあります。市場価格の変動(ボラティリティ)を利益に変える、まさに「攻め」の戦略です。

 

<Part 2:低圧発電所(FIT単価 18円)の場合>
50kW未満の小規模な発電所を想定したシミュレーションです。

【シミュレーション前提:低圧】
FIT単価: 18円/kWh
年間発電量: 50,000 kWh(DC50kW規模を想定)
アグリゲーター費用: 総収入の10%
FIT継続の場合の年間収入: 18円 × 50,000 kWh = 900,000円

●ケース1:市場価格がFIT価格より低い場合 (電力市場価格:16円/kWh)
FIP転換後の年間収入:
プレミアム単価: 18円 (基準価格) – 16円 (参照価格) = 2円/kWh
収入合計: (16円 + 2円) × 50,000 kWh = 900,000円
アグリゲーター費用: 900,000円 × 10% = 90,000円
最終収入: 810,000円

考察: 高圧同様、市場価格がFIT単価を下回る状況では、アグリゲーター費用の分だけ減収となります。

●ケース2:市場価格がFIT価格より高い場合 (電力市場価格:20円/kWh)
FIP転換後の年間収入:
プレミアム単価: 18円 – 20円 = 0円
収入合計: 20円 × 50,000 kWh = 1,000,000円
アグリゲーター費用: 1,000,000円 × 10% = 100,000円
最終収入: 900,000円

考察: 市場価格がFIT単価を2円上回っても、収益はFIT継続時と全く同じです。アグリゲーター費用10%の負担が重く、低圧(18円)の場合、電力市場価格が20円を超えてこないと増収は見込めません。FIT単価が高いほど、FIP転換で利益を出すためのハードルは高くなります。

●ケース3:【低圧 + 蓄電池】戦略的売電で収益を最大化
高圧と同様に、夕方の高値(売電単価35円と仮定)で売電します。
蓄電池併設FIPの年間収入:
売電単価: 35円/kWh
参照価格は市場全体の平均(20円/kWh)と仮定 → プレミアム単価は0円
売電収入: 35円 × 50,000 kWh = 1,750,000円
収入合計: 1,750,000円
アグリゲーター費用: 1,750,000円 × 10% = 175,000円
最終収入: 1,575,000円

考察: 低圧においても、蓄電池を組み合わせることで収益性は劇的に向上します。ただし、高圧に比べて発電量が少ないため、蓄電池の投資回収期間については、より慎重なシミュレーションが必要です。

 

3.FIP転換の判断基準

シミュレーション結果から、FIP転換を検討すべき事業者の特徴がより明確になりました。

①FIT単価が市場の平均価格帯に近づいている事業者
高圧案件や、FIT中期以降の低圧案件(例:21円/kWhなど)は、市場価格が少し上昇するだけで損益分岐点を超えやすく、FIP転換の恩恵を受けやすいと言えます。
逆に、FIT初期の高単価(例:30円台)を維持している場合は、よほどのことがない限りFITを継続する方が賢明です。

②アグリゲーター費用(10%)を上回る市場メリットを確信できる事業者
FIP転換は、単純に市場価格がFIT単価を上回るだけでは不十分です。「市場価格 > FIT単価 + アグリゲーター費用」という構図が見込めるかが重要です。今後のエネルギー市場の動向をどう読むか、という経営判断が問われます。

➂蓄電池への追加投資を「コスト」でなく「利益創出の機会」と捉えられる事業者
シミュレーションが示す通り、FIP転換のポテンシャルを最大限に引き出すのは蓄電池です。追加投資の資金計画が立てられ、市場の変動を利益に変えることに魅力を感じる事業者にとって、FIP転換は大きなチャンスとなります。

 

4.FIP転換の手続きについて

FITからFIPへの移行は「移行認定申請」という手続きになります。新規の事業計画認定とは異なり、既存の認定情報を変更する形です。

●主な流れ
①収支再計算とアグリゲーター選定: 最も重要なプロセス。手数料だけでなく、取引戦略やサポート体制を吟味し、パートナーを決定します。
②電力会社への手続き: FITからFIPへの切り替えを電力会社に申請します。
③事業計画変更認定の申請: 経済産業省へ電子申請。アグリゲーターとの契約書がキー書類となります。
④FIPでの売電開始: 認定後、システム連携などを経て、晴れてFIP事業者として市場での売電がスタートします。

準備開始から売電開始まで半年~1年を見込み、契約するアグリゲーターや申請代行事業者と連携して進めるのが一般的です。

いかがでしたでしょうか?
今回の記事は、あくまでもシミュレーションに過ぎず、地域(電力エリア)、発電所規模(低圧・高圧・など)によって試算結果が変わるため、効果を保証するものではございません。あらかじめご了承ください。

しかしながら、今後の投資計画の一つの判断材料とし、信頼できるパートナー(アグリゲーター、販売施工会社など)に相談の上、最適な次の一手を、ぜひご検討ください。

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